断易は、易で使用する六十四卦に十二支や五行などの考え方を掛け合わせた占いです。六十四卦といえば周易が有名ですが、断易は周易とは似ても似つかぬ占術で「易の形を借りた干支術」とも呼ばれています。日本ではどちらかというとマイナーな占術かもしれませんが、吉凶をはっきりと導き出したい際に役立ってくれる占いです。
また、断易は占いの中でも確かな知識が必要となる占術です。計算など覚えなくてはいけない事もたくさんありますから、面倒だと思われてしまうことも少なくありません。しかし、知れば知るほど奥が深いのが断易です。また、勉強するほどその精度もあがり、占いの的中率もどんどんアップしていくでしょう。
今回は、そんな断易の特徴ややり方の手順などについて解説していきます。
断易とは?
断易とは、易卦という図像を形成する爻に十二支を割り振り、それらの五行や陰陽の関係性によって物事の吉凶を読む占術です。別名五行易や鬼谷易、納甲易などとも呼ばれています。
起源
断易は中国の春秋戦国時代に鬼谷子という道士によって生み出されたという説があり、断易が鬼谷易とも呼ばれる所以となっています。しかし鬼谷子創始説は伝説として捉えられ、文献上では前漢時代に京房という役人によって創定されたとされています。断易はその後道教に組み込まれるものの、明や清時代には確かな占術として認められ発展していきます。なお、断易には様々な文献がありますが、特に重要とされているのは断易の根本理論を解説した「ト筮正宗」だといわれています。
歴史
日本に断易が伝わったのは室町時代で、その的中率の高さから仙人の易と称され軍略にも使用されていたようです。江戸時代には「五行易指南」や「断易指南抄」などの書物が出版され断易が普及するきっかけとなりました。明治時代以降も様々な研究書や指南書が発表され、現在でも占術として使用される傍ら研究や考証が続けられています。
断易で占えること
断易は吉凶がはっきり出る占いです。Yes/Noで答えられる質問は勿論、物事の優劣などを知りたい際にも最適な占術といえるでしょう。具体的な事柄を読むことも可能なため、誰の〇〇について占いたいといった場合にも役に立ちますよ。また、占いで出た吉凶が実現する時期(応期)をみることができるのも断易の特徴です。そのほか、断易では結果の判断が困難な場合や結果が著しく悪い場合は同じ項目を再度占うことも可能としています。
断易の特徴や意味の見方
断易の特徴は、「易卦」という形式に五行や十二支の概念を組み合わせている点にあります。易卦とは陰陽を持つ「爻」を重ねたもので、陰は「–」、陽は「-」の記号で示されます。この2つの記号を3つ組み合わせて8種類に分けたものを「八卦」と呼び、八卦をさらに2乗して64パターンに細分化したものを「六十四卦」と呼びます。
この考え方は同じ易占いである周易とほぼ同じですが、断易で六十四卦を求める際は八宮×(八宮に属する)八卦という仕組みを使用します。八宮とはいわゆる乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤の八卦を宮として定めたもので、各宮に首卦・一世卦・二世卦・三世卦・四世卦・五世卦・遊魂卦・帰魂卦から成る8つの卦が配属されるという形になっています。なお、それぞれの宮には自然現象や五行などの意味が割り当てられています。
名称 | 五行 | その他の意味 |
乾宮(風) | 金 | 父 |
兌宮(沢) | 金 | 三女 |
離宮(火) | 火 | 次女 |
震宮(雷) | 木 | 長男 |
巽宮(風) | 木 | 長女 |
坎宮(水) | 水 | 次男 |
艮宮(山) | 土 | 三男 |
坤宮(地) | 土 | 母 |
断易の六十四卦表
ここでは本来の記号ではなく漢字表記したものを使用します
右:八卦下:八宮 | 首卦 | 一世卦 | 二世卦 | 三世卦 | 四世卦 | 五世卦 | 遊魂卦 | 帰魂卦 |
乾宮(天) | 乾為天 | 天風姤 | 天山遯 | 天地否 | 風地觀 | 山地剥 | 火地晉 | 火天大有 |
兌宮(沢) | 兌為沢 | 沢水困 | 沢地萃 | 沢山咸 | 水山蹇 | 地山謙 | 雷山小過 | 雷沢帰妹 |
離宮(火) | 離為火 | 火山旅 | 火風鼎 | 火水未済 | 山水蒙 | 風水渙 | 天水訟 | 天火同人 |
震宮(雷) | 震為雷 | 雷地豫 | 雷水解 | 雷風恒 | 地風升 | 水風井 | 沢風大過 | 沢雷随 |
巽宮(風) | 巽為風 | 風天小畜 | 風火家人 | 風雷益 | 天雷无妄 | 火雷噬嗑 | 山雷頤 | 山風蠱 |
坎宮(水) | 坎為水 | 水沢節 | 水雷屯 | 水火既済 | 沢火革 | 雷火豊 | 地火明夷 | 地水師 |
艮宮(山) | 艮為山 | 山火賁 | 山天大畜 | 山沢損 | 火沢睽 | 天沢履 | 風沢中孚 | 風山漸 |
坤宮(地) | 坤為地 | 地雷復 | 地沢臨 | 地天泰 | 雷天大壮 | 沢天夬 | 水天需 | 水地比 |
卦の名称は周易と同じものを使用することもありますが断易では異なる名称を使います。また、周易では六十四卦それぞれに卦辞や爻辞が付いていますが、断易ではそれらを見ることはほとんどないといわれています。
五行
次に、断易で卦を見る際に重要となる五行と十二支について解説します。これらの要素は六十四卦を構成する爻一つ一つに配置され、その相剋関係などから結果が導き出されます。
五行とは森羅万象を構成する要素のことで、木・火・土・金・水の5種類があります。五行にはそれぞれ性質や意味があるほか、季節や方角など様々な物事に当てはめられています。
五行 | 性質 | 方角 | 季節 |
木 | 樹木が育つ | 東 | 春 |
火 | 火・灼熱 | 南 | 夏 |
土 | 土・保護 | 中央 | 土用 |
金 | 金属・堅固 | 西 | 秋 |
水 | 水・霊性 | 北 | 冬 |
五行はお互いに影響を与えながら循環・変化していくと考えられています。その中で、相手を生み出し助け合う陽の関係と、相手を滅ぼし害し合うという陰の関係性があり、前者を「相生」、後者を「相剋」と呼びます。
相生の関係
木生火 | 木が燃えて火が生まれる |
火生土 | 火が燃え尽きると灰が残り土になる |
土生金 | 金属や鉱物は土から産出される |
金生水 | 金属が冷えると表面に水滴が生じる |
水生木 | 木は水によって育つ |
相剋の関係
木剋土 | 木は土から養分を吸収する |
土剋水 | 土は水の流れを塞ぎ、濁らせる |
水剋火 | 水は火を消火する |
火剋金 | 火は金属を溶解する |
金剋木 | 金属は木を切る |
十干
また、五行は十干という要素を用いることで陰と陽に分類することができます。十干とは甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸の10要素のことで、十二支と組み合わせて暦などの表示にも用いられています。なお、十干のうち陽となるものを「兄」、陰となるものを「弟」で表現しています。
十干(意味) | 五行 | 陰陽 |
甲(木の兄) | 木 | 陽 |
乙(木の弟) | 木 | 陰 |
丙(火の兄) | 火 | 陽 |
丁(火の弟) | 火 | 陰 |
戊(土の兄) | 土 | 陽 |
己(土の弟) | 土 | 陰 |
庚(金の兄) | 金 | 陽 |
辛(金の弟) | 金 | 陰 |
壬(水の兄) | 水 | 陽 |
癸(水の弟) | 水 | 陰 |
十二支
十二支は生まれ年を表す12の動物として知られていますが、年だけでなく月日や時間、方角などを表す際にも用いられます。各十二支には以下のような意味や性質があり、それぞれに五行や陰陽などが定められています。
十二支 | 五行 | 陰陽 | 月 | 時間 | 季節 | 方位 |
子 | 水 | 陽 | 11月 | 23時~1時 | 冬 | 北 |
丑 | 土 | 陰 | 12月 | 1時~3時 | 土用 | 北東 |
寅 | 木 | 陽 | 1月 | 3時~5時 | 春 | 北東 |
卯 | 木 | 陰 | 2月 | 5時~7時 | 春 | 東 |
辰 | 土 | 陽 | 3月 | 7時~9時 | 土用 | 東南 |
巳 | 火 | 陰 | 4月 | 9時~11時 | 夏 | 東南 |
午 | 火 | 陽 | 5月 | 11時~13時 | 夏 | 南 |
未 | 土 | 陰 | 6月 | 13時~15時 | 土用 | 南西 |
申 | 金 | 陽 | 7月 | 15時~17時 | 秋 | 南西 |
酉 | 金 | 陰 | 8月 | 17時~19時 | 秋 | 西 |
戌 | 土 | 陽 | 9月 | 19時~21時 | 土用 | 北西 |
亥 | 水 | 陰 | 10月 | 21時~23時 | 冬 | 北西 |
支合
断易では十二支の相互関係を見ることが特に重要視されます。十二支の相互関係は8種類ほどありますが、断易では主に「支合」と「冲」の2種を用います。
支合には和合する・離れないなどの意味があり、結びつきが強い十二支のことを意味します。支合には以下のような6通りの関係があり、六合や相合とも呼ばれます。
子・丑子丑の合 | |
寅・亥 | 寅亥の合 |
卯・戌 | 卯戌の合 |
辰・酉 | 辰酉の合 |
巳・申 | 巳申の合 |
午・未 | 午・未の合 |
冲
冲には衝突や離れるなどの意味があり、真反対の方位に位置する十二支の関係を指すものです。6通りの関係性があるため六冲と呼ばれることもあります。
子・午 | 子午の冲 |
丑・未 | 丑未の冲 |
寅・申 | 寅申の冲 |
卯・酉 | 卯酉の冲 |
辰・戌 | 辰戌の冲 |
巳・亥 | 巳亥の冲 |
断易のやり方
断易は自分で占うことも可能ですが、複雑な手順が多いため気軽に占いたい場合は無料の占いサイトを利用することをおすすめします。ここではおおまかに断易の手順を解説しますので、興味がある方は参考にしてください。
準備するもの
● サイコロもしくは硬貨(それぞれ3つずつ)
● 干支暦
● 筆記用具、メモなど
手順
手順①:占う内容を決める
できるだけ具体的な内容のものを用意しておきましょう。
手順②:干支暦を参照する
干支暦を参照して占いを行う月日の十干・十二支を調べておきます。占う月の十二支を月建、日の十二支を日辰と呼びます。
手順③:卦を出す
占う内容を念じながらサイコロや硬貨を3つ机の上に放り投げ、出た面の組み合わせをチェックします。それぞれの組み合わせには陰陽の名称と記号がありますのでメモしておきましょう。
サイコロ | 硬貨 | 名称 | 記号 |
奇数が3個 | 表が3枚 | 老陽 | ―― |
奇数が1個 | 表が1枚 | 少陽 | ‐‐ |
偶数が1個 | 裏が1枚 | 少陰 | ‐‐ |
偶数が3個 | 裏が3枚 | 老陰 | ―― |
また、老陰・老陽を動爻と呼び、少陰・少陽を静爻と呼びます。
手順④:②の手順を6回繰り返す
一回目の結果が初爻となり、下から順に一爻・二爻・三爻・四爻・五爻・上爻となりますので各結果をメモします。
手順⑤:どの卦に当てはまるか確認する
③で出た初爻から上爻までの記号の形が六十四卦を表しますので、どの卦に当てはまるか確認します。このとき、老陽または老陰の爻が出た際は動爻となり、老陽は陰爻へ、老陰は陽爻へ変更します。これにより卦の形も変わり、始めに出た卦は本卦、入れ替えた卦は之卦と呼ばれます。変更したあとは動爻の爻のみを見るとされています。
導き出された卦の各爻には、十二支・六親五類・世爻・応爻という要素が割り振られています。これらの要素は自力で算出することもできますが、「納甲表」と呼ばれる一覧表を参照すれば簡単に確認できます。納甲とは卦に十二支や六親を割り振ることを指し、表としてまとめたものが書籍として出版されたりウェブ上で紹介されたりしています。
手順⑥:用神を決める
次に占うテーマの核となる「用神」を決めます。用神は各卦に配置された六親五類と世爻・応爻の中から占う内容に合うものを選択します。
占う内容 | 用神となるもの |
本人のこと | 世爻 |
相手のこと | 応爻 |
両親・目上の人 | 父母 |
兄弟姉妹・同僚 | 兄弟 |
子ども・ペット | 子孫 |
妻・女性の恋人・金銭 | 妻財 |
夫・男性の恋人・仕事・病気 | 官鬼 |
手順⑦:五行の関係を調べる
用神の爻に配置された十二支と、2で調べておいた月建・日辰とを比較し、それぞれの五行の関係を調べます。これを「外側の条件」と呼びます。なお、関係性の解釈として基本的には用神が強かったり他から助けられていれば吉とし、弱かったり害されている場合は凶とみます(病気を見る際など官鬼が用神となる場合を除きます)。
用神と月建で分かること
● 用神と月建の十二支の五行が同じ(辰と戌、丑と未は除外する)=旺(用神が強い)
● 用神が月建の十二支から生じられる関係=相(旺に次いで用神が強い)
● 旺相以外=休囚死(用神が弱い ※日辰と同じ十二支なら旺相に転じます)
● 月建が用神を生じる場合(相)=生(用神が強い)
● 月建が用神を剋する場合(死)=剋(用神が弱い)
● 子と丑、寅と亥、卯と戌、辰と酉、巳と申、午と未=合(用神が強い)
● 子と午、丑と未、寅と申、卯と酉、辰と戌、巳と亥=冲(用神が弱い)
用神と日辰で分かること
● 日辰が用神を生じる場合=生(用神が強い)
● 日辰が用神を剋する場合=剋(用神が弱い)
五行の旺衰を十二支で表したもので、日辰の十二支と用神の五行で判断します。十二運の運行は長生→沐浴→官帯→臨冠→帝旺→衰→病→死→墓→絶→胎→養となりますが、断易では長生・帝旺・墓・絶の4つを使用します。
● 長生=運気が上昇し、やがて帝旺に向かう→吉
● 帝旺=最骨頂の状態。のちに衰退していく→吉
● 墓=運気が下がっている→凶。財運では吉とする場合もあります。
● 絶=運気が非常に落ちている状態→大凶
十干と十二支を組み合わせた際に余る2つの干のことで、無気力・短命などの意味があります。用神が空亡にあたる場合は他からの生剋作用を受けないなどのルールがあります。日辰と用神の十二支から判断します。
● 合の関係=合(静爻の場合は用神が強い、動爻の場合は用神が弱い)
● 冲の関係=冲(静爻で旺相の場合は用神が強い、休囚の場合は用神が弱い※丑と未、辰と戌の場合を除く。動爻の場合は用神が弱い)
● 十二支が同じ場合=同(用神が最も強い、月建との関連で休囚の際も旺相に変わる)
手順⑧:結果を見る
上記を元に結果を判断します。断易では外側の条件だけでほとんどの吉凶が判断できるといわれていますが、判断が難しい場合はさらに「内側の条件」を求めます。内側の条件では動爻と化出爻の関係や原神(元神)・忌神・仇神の関係、六神との関係などを調べて判断していくことになります。
なお、占った結果が実現する「応期」については、卦の吉凶とは別の視点で導き出すとされています。応期には3種類あり、それぞれに個別の求め方があります。
中期占(季節をまたぐ)=主に旺相休囚を見る
短期占(同月内)=主に合・冲・値日・傷を見る
応期には上記以外にも判断材料があり、様々な角度から考察する必要があるといわれています。
断易をやる上での注意点
断易で占う際は手順や専門用語などをよく理解しておくことが重要です。特に占いの鍵となる用神を出す際には注意が必要です。誤った用神で占った場合は結果に大きく影響が出ますので正しい用神を導き出すようしましょう。また、断易では複数の内容を一度に占うことができないため相談事につながりがある場合でもテーマ別に占う必要があります。例えば、兄弟について占いたい場合は用神が兄弟になりますが、その卦の他の六親(父母や子孫など)を実際の両親や兄弟の子どもに当てはめて占うことはできません。面倒でもテーマごとに卦を導き出して占いましょう。
断易の魅力
断易は占い手順がややこしい一面もありますが、物事の白黒を明白にしたい際におすすめです。結果によって同じ項目を占い直せるのも魅力ですね。明確かつ納得する答えを知りたい場合はぜひ断易で占ってみてくださいね。