亀卜(きぼく)とは文字通り亀を用いた占いのことで、亀の甲羅を焼き、発生したひび割れの模様で吉凶を読む占術です。古代中国で実施され、のちに日本にも伝えられ宮中や神社などで行われてきました。現在ではどちらかというと馴染みの薄い占いですが、かつては国家の大事を決める占術として栄え、日本では陰陽道より格式のある占いとして尊ばれていた時代もあるんですよ。
今回は、そんな伝統ある亀卜の歴史や特徴、やり方の手順などについてご紹介します。
亀卜とは?
亀卜は亀の甲羅を焼き、熱によって生じた亀裂で吉凶を判断する占いです。古代中国の竜山文化時代から殷時代にて盛んに行われ、祭事や軍事など国の大事を占っていたとされています。亀は長寿を象徴する生き物として知られていますが、当時の中国では長寿に加え未来を予知する力を持つと信じられていました。また、亀が聖獣の一つとして親しまれていたことも占いに用いる要因になったといわれています。亀卜は殷時代には最も影響力のある占いとして栄えましたが、次の周時代には易(筮)が主流になり次第に衰退していきました。
亀卜の歴史
日本には6世紀頃に中国から伝来し、主に奈良時代や平安時代などで盛んに使用されました。当時の日本においても占いは国の将来を導くツールとして重要な役割を担っており、それまで主流であった太占に代わって亀卜が採用されるようになります。宮廷では神祇官(じんぎかん)に属する卜部が亀卜を行って政局や天皇の健康などを占い、伊豆や壱岐、対馬などにも卜部が設けられ占術を行っていました。使用する甲骨はウミガメのものが多かったといわれています。
なお、当時の占い師としては安倍晴明に代表される陰陽師が有名ですが、陰陽寮が陰陽道や天文・暦などを専門に扱っていたのに対し、神祇官は神祀や宮廷祭祀を専門としていました。両方とも占術を司っていましたが、神祇官が中央官制の二官に属し、陰陽寮がその下におかれた八省に属していたことから、陰陽道よりも神祇官で管轄する亀卜の方が格式が上であったことが伺えます。
その後亀卜は宮中や神社などで行われていましたが、明治時代以降は宮中以外の場で行われる機会は少なくなっていきます。現在では宮中祭事や民間習俗などで行われるほか、一部の教育機関の研究や実験で灼甲を行う例がみられます。
亀卜ではどんなことが占える?
亀卜の特徴は、個人の運勢や相性などを占う占術ではなく、国家の未来や政局、天皇の体調などを占う占術であることです。また、神託を得るなど神事的・宗教的な意味合いが強かった占いでもあります。さらに、上記のような性質から亀卜は秘儀の一つとされ、占術についての情報が開示されにくかったという特徴もあります。このため、一般の人に浸透しにくく、詳しい占術の方法や結果の見方などが伝承されにくかったという一面があります。現在、亀卜の資料として参考にされているのは、大正時代に横山孫次郎によって記された「対馬亀卜談」などの文献や、占い師の子孫の方たちからの伝承が大半です。
亀卜占いの方法
亀卜は神事的な性質を持つ占術であることから、占い方の中にも祭壇を用意して祝詞を唱えるなどの手順がみられます。また、かつて亀卜を行う際は、「卜庭神を迎えて卜問いをする」ということで行う前に7日間の斎忌に服す必要があり、思い立ってすぐに行える占いではありませんでした。
準備するもの
- 亀の甲羅
- 波々迦(ははか)
- 木(桜の木の枝)
- 祭壇
- 小刀など甲羅を彫る道具
占いの方法
- 甲羅に「鑚」と呼ばれる1cmほどの正方形を四つ程度彫りくぼめます。
- 鑚の中に「マチ」と呼ばれる字形を彫ります。
- 祭壇の前で祝詞を唱えます。
- 波々迦木に火をつけ、讃の中に押し当てるようにして焼きます。時々軽く息を吹きかけて燃焼を促します。
- 3を何回か繰り返します。
- 甲羅からパキッというような音がしたら結果が出た合図です。鑚に水を垂らして火を消します。
- 甲羅の反対側に生じた亀裂を見て結果を占います。
結果の読み方については、残念ながら古代で用いられていた判断方法は残っていないといわれています。大正時代に著された「対馬亀卜談」にいくつか読み方が紹介されており、一例としては、亀裂の後端部が右に曲がっていれば「病吉」、左に曲がっていれば「病凶」、まっすぐであれば「悪」となります。なお、本著は後世の人たちによって記されているため、この判断法も古代の読み方とは同一でないという見解もあります。
亀卜の注意点は?
亀卜はその性質上、タロットや星占いのように気軽に行える占いとは言い難い占術です。結果の読み方が十分に伝承されていないこともあり、占いの結果を判断しにくいというデメリットもあります。また、亀の甲羅をどう入手するかという点も課題です。野生の亀を捕獲することは違法になります。かといって、市販されている亀を占いのために購入するのはやめましょう。個人的な運勢を占いたいときは、亀卜以外の占いを行う方がいいかもしれません。
まとめ
亀卜という占いには神事や祭事などの役割が含まれていました。現在、亀卜を実際に見たり実施したりする機会は極めて少なくなりましたが、占いが国家の運営に大きな影響を与えていた時代の名残としてひっそりと生き続けていくことでしょう。